法律

~パブリックドメインとは~

「思想又は感情を創作的に表現したもの」が著作物と呼ばれ,著作権法によって保護されています。
映画は,著作物の代表的なものであり,著作権法によって保護されていることは周知の事実です。なお,ここで言う映画には,実写映画,アニメ映画の両方が含まれます。 そして,映画のワンシーンを,視覚効果的に加工することなくゲーム機等に使用した場合,映画の著作権(複製権)を侵害することになり,視覚効果的な加工を行った上でゲーム機等に使用した場合にも著作権(翻案権)を侵害することになります。

ところが,著作権には存続期間が存在し,一定の期間が経過した著作物は著作権法によって保護されません。 すなわち,視覚効果的な加工の有無を問わず,映画のワンシーンをゲーム機に使用したとしても著作権を侵害することにはならないのです。 このような著作権の保護期間が経過し,誰しも使用することができる著作物のことを「パブリックドメイン」と呼ばれており,映画についても,この例外ではありません。

平成16年1月1日以前に公表されたものについては公表から50年,同日以降に公表されたものについては公表から70年経過したものは,パブリックドメインとなり誰しもが使用することが可能になります。 例えば,1953年(昭和28年)に公表されたアメリカ映画「ローマの休日」や「第十七捕虜収容所」,「シェーン」などは,2003年(平成15年)12月31日で保護期間が満了しており,使用することができるとされています(注)。

(注) 著作者を特定することが可能である場合(映画監督の表示が行われている場合)には,著作者の死亡時を基準として保護期間を起算するべきであるとした裁判例が存在するため,保護期間満了時については個別の判断が必要になります。 また,昭和16年12月7日時点で存在したアメリカ映画については,サンフランシスコ平和条約に基づいて3794日間の保護期間延長が認められていますので,映画の公表時の確認が重要になります。



~著作者人格権~

パブリックドメインであるとの理由で,映画をどのような方法で使用してもよいということにはなりません。 自然人,法人(注)の区別を問わず,著作権法では著作権のみならず著作者人格権が保護されており,著作権の保護期間と関係なく,自然人であれば亡くなるまで,法人であれば解散等の理由により消滅するまで存続します。

公表された映画の著作者人格権としては,氏名表示権及び同一性保持権が問題となり,これらの権利に反する方法で使用すると権利侵害となります。 なお,著作者が自然人である場合には,著作者の死亡により著作者人格権は消滅しますが,遺族等には著作者の死後の人格的利益を保護する権利が存在しますので,これに対する配慮も必要になります。 そして,著作者人格権のうち特に問題なると考えられるのが同一性保持権です。この権利は,元の映画等のイメージを損なうことなく使用してもらう権利と言い換えることができ,ゲーム機等に映画のワンシーンを使用する場合に検討しなければならない権利であるといえるでしょう。

(注) 著作権法では,法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その法人等とすると規定されていますので,法人等が原始的に著作者人格権を取得します。



~実演家の権利~

実写映画の場合,実演家の著作隣接権,実演家人格権,パブリシティ権が問題となりますが,パブリックドメイン化した映画については保護期間との関係で著作隣接権を考慮する必要がありません。 しかし,実演家が存命中であれば実演家人格権,パブリシティ権の両方が,実演家が亡くなった後であっても遺族等の権利がのこりますので,それに対する注意喚起が必要になります。 以上のとおりですので,以下のような説明を行っておく必要があると考えています。

実写映画(注)の場合,著作者の権利だけでなく実演家(俳優・女)の権利についても検討しなければなりません。 そして,実演家についても,亡くなるまでの間,氏名表示権及び同一性保持権が認められ,亡くなった後も遺族等には著作者の死後の人格的利益を保護する権利が存在しますので,これに対する配慮が必要になります。

さらに,実演家については,判例によってパブリシティ権が認められているので,パブリシティ権に対する検討も必要になります。 ここで,パブリシティ権とは,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する肖像等を排他的に支配する権利と定義されています。 そして,裁判所において示されたパブリシティ権の侵害態様として,

①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する,
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する,
③肖像等を商品等の広告として使用する行為が例示されおり,これらの行為以外であっても,
 専ら肖像等の有する顧客吸引力を利用を目的として使用する場合がこれにあたるとされています。

ただし,パブリシティ権は,人格権に由来するものとして判例上保護される権利ですので,対象となる人物が亡くなったときに権利も消滅します。 ですから,パブリックドメインと化した映画を使用する際に,亡くなっている実演家についてはパブリシティ権に配慮する必要はありませんが,存命中の実演家である場合にはパブリシティ権に対する検討する必要になります。

そして,ゲーム機等に著名な実演家の動画を使用すると,多くの場合に他の機器との差別化を図る目的で映像を使用していると判断される可能性が高いため存命中の著名な実演家の動画を使用することは避けるべきであると考えています。 なお,亡くなられた実演家の遺族等による請求権は,実演家人格権と比較して制限された権利であることから,実演家人格権との関係においても存命中の著名な実演家の動画を使用することは避けるべきであると考えています。

(注) アニメ映画のキャラクターには,実演家の権利のような権利は存在せず,裁判所においてパブリシティ権の存在も否定されていますので,これらを考慮する必要がありませんので,純粋に著作権の保護期間のみを検討すればよいことになります。